ホールに入って真っすぐカウンターへ向かう。
見える範囲のパチンコ台は八割方お客さんで埋まっていた。
満員と言って良い状態である。
先の方に見えるカウンターには、白シャツでは無く女性の店員が見える。
僕はカウンター前に立ち胸ポケットから二枚のレシートを取り出し女性店員に渡した。
なんの緊張も罪の意識も無い。
これで五万円の手取りになると思えば余りの呆気なさに呆れる。
カウンターの上に置いてあるサイコロキャラメルが昔は5円だったと思い出す。
女性店員が10万円分の、ライター石が詰まった特殊景品と一緒にサイコロキャラメルを二つくれた。
「一個で良いよ」
そう言ってサイコロキャラメルを一つ返した。
手の中でサイコロを転がしながらホール内をユックリ廻った。
廻りながら空台で大当たり回数が10回を越えている台を探す。
見つける度に台番号を携帯に打ち込んで何番台が何の機種かを頭に叩き込んだ。
5台ほど見つけた所でトイレに向かう。
早く紙に書かなければ何番台が何の機種かを忘れてしまう…
少し慌てた。
ゴトとは関係無い僕の記憶力の問題であった…
残念な自分の記憶力にヘコたれ気味に外へ出た。
五台ぐらい覚えろよ…
このポンコツ頭…
僕には、人の名前の記憶や、物の名前の記憶が、全くと言って良い程出来なかった。
しかし足し算、引き算などは誰よりも早い。
どう言う事であろう?
悩んでしまう。
ねーねー
馬鹿って事?
いやいや、馬鹿では無い!
馬鹿は嫌!
子供の頃は結構優秀だったし!
そう言えば方向音痴も酷い…
真っすぐ進まなければいけない道の、途中のコンビニに寄ったりして出て来ると、来た道を引き返したりする。
すぐ気付かずに大分経ってから気付いてヘコむ…
もうやだ…
僕帰る…
てなる。
独り言は癖である…
駐車場を見渡して、外にある換金所の位置を確認した。
換金はせずにコンビニの駐車場へ戻る。
歩きながら、この先の作戦会議を、独り言を交えてやった。
良夫ちゃんと婆さんが、このゴトのキモになると思った。
レシートを作り直させる必要も感じる。
駐車場に着くと良夫ちゃんのバンが停まっている。
中には婆さんとツルッパも乗っていた。
僕は手を挙げ、待機の指示をして、冷し中華が待つ自分の車に乗り込んだ。
そしてイキナリ言った。
「だいぶキツいな! 捕まるかもしんねぇぞ」
コメント