今回の事件は恐喝では無く、れっきとしたゴトである。
高いが、道具のレンタル賃を取ったと、僕は認識している…
この出来事の後も、手下達の僕に対する態度は変わらなかった。
結局恐怖で周りを支配する事など僕には出来なかった。
相変わらずコーヒーを買いに行かされたり、ご飯代を払わされ続けた。
強いて一つ変わった所を挙げるとするならば、僕の車のダッシュボードに足を上げて居眠りする奴はいなくなった。
それだけである。
こののちギンパラのゴトをする際は、二人組で廻るように手下達に注意した。
しかし稼げない組の中には一人で廻る奴らも変わらずにいた。
そしてまた一人襲われた。
その時は手掛かりが全く無く、泣き寝入りで終わった。
問題はいつも、稼げない組を中心に降り注ぐようであった。
唯一、稼げる事が原因で不幸な目にあった奴がいる。
リカちゃんである。
彼女は真面目なゴト師であった。
朝10時のパチンコ屋の開店と共にホールに入り、一日数件のパチンコ屋を廻る。
それら全てが捕まらない店である。
都内にどれ程の電波ゴト師が居たかは知らないが、リカちゃんの稼ぎ出す金額を越える奴らは、数少なかったと思える。
事件は電波ゴトを始めて、一年経たない頃にリカちゃんを襲った。
その報せは、リカちゃんがよく連れている、打ち子の女の子から、僕の携帯に届いた。
「リカが倒れて病院に運ばれちゃった! 心臓が止まったって!」
え?
女の子は泣きじゃくりながら電話口でそう言った。
死んだ?
「死んだの?」
そう僕は、女の子に聞いた。
「わかんないよ〜」
そう言って女の子は泣き続けるばかりであった。
「泣いてたら分からないよ。落ち着きな。今、君はどこにいるの?」
病院の名前を言った。
近い…
自分のゴトを中断させて病院へ向かいながら女の子に話しを聞き続けた。
パチンコ屋の中で、電波ゴトの最中にリカちゃんは突然倒れたと言う。
救急車が到着した時には心停止の状態であった。
パチンコ屋のホール内で行われた心臓マッサージで、心臓はすぐに活動を開始した。
そして、打ち子の女の子を同乗させた救急車は、夕暮れの町を、病院へと走り込んだ。
心停止の原因は、この時全く分かっていない。
まさか電波ゴトが原因だとは思いもしなかった。
この時期、既に電波ゴトは、CRのギンパラに変わっていて、道具はセカンドバックなど持たない、体に装着するタイプに変わっていた。
電波ゴトは死ぬ危険をハラんでいた。
病院に到着して医者に会った。
なぜ心停止したのかは分からないが、今は回復したと言う。
医者の先生が、女の子と僕に聞きたい事があると言って、別室へと案内された。
入った部屋のテーブルの上には、電波ゴトの道具が並べてあった。
あ!
道具が原因か!?
感電か?
道具には、バッテリーの小さい奴が付いている。
「これ何の機械か分かるかな?彼女が体に装着してたんだけど」
そう医者の先生は言った。
心臓がドクンと一つ跳ねた。
一瞬で頭の中をいくつもの考えが駆け回った。
電波を飛ばす機械…
言ったらまずいだろ…
警察は問題ないか?
電波法には、引っ掛かるか…?
原因が分からないと治療が出来ない…?
道具が原因では無いのに、医者が道具を原因だと思っていれば治療が遅れる…?
一度心停止している…
嘘はまずい…
命の方が大事…
「電波を飛ばす機械です」
捕まらないよな…
死ぬより良いだろ…
そう思った。
判断ミスである。
医者はちょっとビックリした顔をした。
「電波ってどれぐらいの強さなの?」
「分かりません…」
少し医者の先生は考える顔をした。
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