電波ゴト17

百回転もすると初当たりをアッサリ引いた。

それまでの間にも店員は何度も後ろを通ったりしている。

リカちゃんは全く動じない。

目線で店員を追い掛けたりもしない。

下手くそなゴト師がよく言う事がある。

「キョロキョロなんかしないで、パチンコ台のガラスに写った店員の動きを見れば良いんだよ」

二流である。

どこに写そうが店員の動きを目で追えば体に緊張が走る。

肩が少しあがる。

ガラスに店員を写そうとしてアゴも上がる。

目の動きだけで、ガラスに写った店員を追い掛けている積もりでも、クビが一緒に微妙に動いている。

通り過ぎたと安心して、店員の後姿を目で追い掛ける。

全て無駄である。

臆病になり過ぎれば必ず不自然な動きとして出る。

人は見られている事に感覚で気付く動物である。

それらの微妙な動きは繰り返せば逆に店員の注意を呼ぶ。

何も気にせずボンヤリと体から力を抜いて打つのが正解である。

店員は疑えば必ずおかしな動きをする。

普段はボンヤリ打っていてソコに感覚で気付けたら逃げれば良いだけである。

半分諦める事が、助かる可能性を上げるのである。

リカちゃんは最初の当たりを引いてすぐにトイレに行くと言った。

「ちょっとこの台打っててよ。暇でしょ」

そう言って席を離れた。

手伝う積もりなど僕には無かったのだが、仕方なく当たり中の台に移動して、台任せに打ち始めた。

少ししてトイレから出た彼女は、僕の所には戻って来ないで、他の台を一人打ち始めた。

僕のガードなどいらないと言う事であろう。

負けん気が強い。

普段男に見せている態度とは全く違う。

か弱さなど微塵も無い男らしい女であった。

数時間後に出玉に満足したのかリカちゃんは僕に終わりの合図をした。

僕は彼女に出して貰った玉で最後まで遊んでいるだけであった。

しかし出玉を余り減らす事なく、自力で出たり入ったりを繰り返し、二箱は確保した。

飲まれたら怒られそうだったので助かった…

彼女は、今すぐにでも一人でやれると思った。

先に車に戻った彼女は、換金したお金を数えていた。

「はいこれ」

そう言って、僕が換金した一万円を彼女に渡した。

黙って受け取りリカちゃんは少し考えている。

「一万円の30%っていくら?」

そう僕にリカちゃんは聞いた。

「三千円だよ…」

リカちゃんはニヤリとした。

「ふ〜ん、じゃあ道具も借りたし五千円あげるからね〜」

そう言って五千円札を僕の目の前でヒラヒラさせる。

逆の手には換金したばかりの万札を握っている。

道具代二千円かよ…

勝手に決められた。

その五千円札を引ったくると、ご苦労様〜と言われた。

あしらわれてる!

僕、あしらわれてる!!

全てにおいて僕の負けである…

馬鹿だけど、しっかりした面白い奴だと思っていた。

新しい道具が、少しして手に入ると、リカちゃんは一人でホールを廻るようになった。

彼女は、ゴト師としては優秀であった。

稼げると判断したリカちゃんは、すぐさまキャバクラをやめた。

そしてギンパラの設置してある店の店員を、自分で取り込み始めた。

それはいつも下っ端の店員ではあったが、捕まらない形を着々と築いていった。

その数は常時5軒はあった。

一日一軒で大量に抜くと、ホール側に気付かれるので、一軒辺りで抜く金額は抑えながら、女の子の打ち子を連れ歩くようになって行った。

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