良夫ちゃんも理解した。
三個入れる所は、一発づつ打ち出せば、チョコチョコ開く小口チャッカーが玉を簡単に拾う。
守りが居る今の状況なら楽な物だろう。
店員は守りの五人に任せて、出し続けろと伝えた。
「守りなんていりませんよ。店員、もう諦めてます」
そう良夫ちゃんは言う。
え?
そんな馬鹿な…
忍法偶然を僕は知らなかった。
いくら呼び掛けても寝たふりを続ける良夫ちゃんに呆れ、この時既に、店員は諦めていたと言う。
守りに入った五人からも、店員は見てるだけで何も言って来ないと連絡が来た。
ゴキブリ何やってんの?
アイツがヤバいって言ったのに…
すぐにゴキブリを電話で呼びだした。
「お前なんでセットしないの?店員平気らしいじゃねーかよ!ふざけんなよ!」
立って見ている店員が、どうのこうのと言っていた。
ゴキブリのヘタレ嘘のおかげで、五人分の日当を損こいた。
僕に損をさせた罪は重い…
「5%は貰うからな。それと五人分の日当も取るからよろしくな。早くセットしないと払いが出来なくなるぞ。頑張れよ」
そう言って、僕は電話を切った。
良夫ちゃんに僕の助けなど必要なかった。
ビビッて空回りしていたのは僕の方なのだ。
僕はやっぱり怖がりなのだろう。
この後は何の障害もなく、閉店間際まで良夫ちゃんは箱を積み上げて行った。
閉店間際に、僕は一度、帽子を被り店内を見に行った。
遠間から見た良夫ちゃんは、ドル箱の山に埋もれていた。
店員が良夫ちゃんの面倒を見ないのであろうか、五人組が箱の整理をしている。
その光景を、遠巻きに見る沢山のお客さんの肩越しに、僕はハッキリと見た。
勝てない…
やり合えば負ける…
そう僕は思った。
手前に見えるゴキブリのドル箱は、良夫ちゃんの半分ほどに見えた。
チラリと僕を見たゴキブリの目の中に、消し切れなかった、恐怖がのぞいている。
その目を見た時、先程までの怒りは消えていた。
ゴキブリが、なぜか僕の分身に見える。
コイツしょうがねぇなあと思うと、ゴキブリに笑い掛けていた。
恥ずかしそうに笑い返すゴキブリに、調子に乗るなよと伝えるニラみをくれて僕は外へ出た。
リュウや婆さんやハツコが、なにが楽しいのか嬉しそうに三人で笑っていた。
コメント