怒りを押さえて僕は聞いた。
「どこにいる?」
「外で煙草吸ってます」
ホールを出たらゴキブリが道端に座って煙草を吸っていた。
僕はゴキブリに喧嘩でも負ける気がしない。
「おい!なんで打ってねぇんだよ!」
慌ててゴキブリは何か言い訳をした。
「お前、良夫ちゃんを脅かしたって?舐めてんのか?僕が連れてる人間を脅かすって事は、僕に喧嘩売ってるって事だろ? おい!」
やる気満々である。
後の事など、どうでも良かった。
しかしコイツはヘタレだった。
喧嘩にもならない。
ずっと言い訳…
つくづく駄目なヤクザだった。
なぜ喧嘩に勝って、立場を逆転させる事を考えないのか不思議である。
僕なら、喧嘩さえせず組の力を使う…
謝るので許した。
しかし良夫ちゃん達と一緒に廻る事は出来なくなった。
良夫ちゃんビビり過ぎ…
仕方なく妄爺の店の新人教育のついでに、ゴキブリを連れ廻した。
車の中での世間話しの中で、ゴキブリは裏ロムの打ち子をよくやっていたと言う。
そんなもん小学生でもやれるわい。
コイツやっぱりクビにしよう…
めんどくさい…
そう思っていた。
その時、調度サンゾクの閉店の情報が入った。
ゴキブリに打ち子やらして見よう!
ハッタリをチラつかせて脅かした良夫ちゃんと対決させよう!
どれだけ良夫ちゃんが凄い根性をしているのかを見せつけたくなった。
僕が根性を唯一認めた男は、ヘタレヤクザなんかに負けない…
ハッタリじゃない本物を見せてやる…
そして脇坂をあざ笑い、ゴキブリはクビだ!
僕はゴキブリに聞いた。
「おい、明日裏ロムの打ち子あるよ。出せるだけ出す奴だから結構金になるし。やらない?」
「やるやる!取り分いくら?」
すぐにゴキブリは聞いて来た。
「30%。でも僕は間に入るだけだから繋ぎ料金少しくれよ。5%ぐらいで良いよ」
当然のように安く使う…
それでも頷くアホなゴキブリ。
「それと、あまりにも出せなかったら%減るからね…」
保険も掛けた。
完璧である。
こうして二人目の打ち子に、ゴキブリが決定した。
【プッツンゴト師良夫ちゃん VS ヘタレヤクザ】戦が始まる。
結果は見えている。
楽な店の、裏ロム打ち子の経験しかないゴキブリが、良夫ちゃんに勝つ事は無いだろう。
サンゾクで出せるだけ出すと言うのは案外きつい。
箱を積み上げ始めれば、ハーネスゴトを知っている店員達が、警戒の為、当然のように張り付く。
店員に張り付かれればセットがやりづらくなる。
セットには、不自然に1分間や40秒ほど、玉の打ち出しをやめなければならない行程が入る。
すぐに店側は、ハーネスが付いている事に気が付く。
その中で、出し続けなければ為らない。
ゴキブリに出来るか?
常識が働かないか?
良夫ちゃんには出来る。
なぜなら常識の外側にいる人間だからである。
ただし僕の暗示があればである。
サンゾク閉店前日に決行する事に決めた。
最終日だと、急遽店を閉めると言う荒業に社長は出て来るかもしれない。
それをされたら防げない。
それ以外なら、打ち子の根性によるが出し切れる。
パチンコ台は営業中の電源切りが違法である。
ましてや改造など許される物では無い。
打ち子が打つのをやめなければ、何も出来ないと言う事である。
コメント