待ち合わせたファミレスの席で小池は笑って言った。
「警察に届けるって散々脅かされましたよ!」
もっと青い顔をしていると思っていたので、少し安心した。
捕まっても社長は多分警察を呼べないと教えてあった。
話しを付けて、変造カードをやらせていた事は、小池も知っているのである。
下手に喋られれば社長も捕まる。
取り付けた経緯と僕達の絡みを一番しつこく聞かれたと言う。
馬鹿でもそこは気付く。
しかしこれに対しての答えは用意出来なかった。
誰からハーネスを仕入れたのかや、打ち子をどうしたのかを聞かれて上手い言い訳はない。
何を言っても突っ込まれれば嘘がバレる。
知らない、忘れたと答えて後は黙れと教えた。
下手な嘘をつかせれば小池はドジると思っていた。
小池は、ここを良く乗り切った。
「必死でしたよ〜 ツジツマが全然合わないんですもの〜」
そう得意げに小池は言った。
社長は僕を完全に疑っているそうである。
それは最初から分かっている事であった。
小池が喋っていない以上、問題は何もない。
当然最後は抜いた金額の弁済の話しになった。
ここまで僕が教えた通りに事が運んでいたので、小池は警察を呼ばれない事を確信したと言う。
「金の話しが出たら貧乏だから金無いって言え。 どうしても払えって言うなら警察呼んでくれと言って、カードの事も喋ると脅かせ」
そう僕は小池に教えていた。
警察を呼ばれない確信があった小池は、そのままを言った。
結果クビで放り出された。
今月の給料は出さないと言われている。
「それぐらいで済んで良かったんだ」
そう言って三十万円程を小池に渡した。
サンゾクなんか僕の敵ではない…
コスイ悪知恵なら誰にも負けない気がしていた。
小池は仕事が無くなったので、変造カードを一緒にやりたいと言う。
考えるまでも無く断った。
怖がりにゃ無理だ…
周りでは沢山の変造カードゴト師が捕まり始めていた。
少し小池の人生を僕が変えてしまった。
なにはどうあれ僕は小池を喰いものにした。
何かしてやれる事はないかと考えたが、怖がりにさせられる事は思い付かなかった。
仕方なく僕は言った。
「喋らないで頑張ったから卸してるカードの値段100円下げるよ」
根がセコいので100円だけ下げた。
それでも小池は喜んでいた。
月に三十万円は小池の儲けが増える計算である。
「カードが売れている間に仕事探しなよ。もうすぐカード終わるよ…」
「終わられると困るんですよね。車のローンもあるし」
それだけではない…
小池はキャバクラに狂い始めていた。
完全に色恋営業に踊らされている小池は、まるでマリオネットのようで笑える。
ゴトを離れて小池を見ると、彼は普通の20代の男であった。
この時僕が、小池との付き合いをハッキリ断っていれば、小池はまだやり直せていただろう。
しかし断りづらかった。
カードの取引もあった。
何者かが小池を不幸へと引き吊り上げて行く。
それは僕だったのかも知れない。
小池自身の欲望だったのかも知れない。
それは僕には分からない。
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