偽造・変造カード19

この時期、妄爺にも問題が起こっていた。

いつもは夜にご飯を食べに行くのだが、昼間に会えないかと電話が掛かって来た。

僕は当然ゴト中である。

近くまで行くと言うので会った。

会ってすぐに妄爺は言った。

「頼む。百万くれ!」

必死な顔である。

笑いそうになった。

貸してじゃ無くて、くれと言う。

有り得ない言い草である。

借りても返せないから、くれと言ったそうである。

「良いよ。銀行行って来る。待ってな」

そう言って、お金を下ろして来た。

僕の貯金箱は、ゴミ箱なので、銀行には二百万程しか入れていない。

犯罪で稼いだお金など、そんな物である。

税金など払いたくても払えない。

妄爺に渡すお金なら理由など、どうでも良かった。

「何に使うか聞かないのか?」

そう妄爺は言った。

仕方ないから笑いながら聞いた。

「カツアゲでしょ?」

違うと言う。

違わないと言う。

妄爺は理由を話し始めた。

浪花節である。

刑務所に入る時に別れた嫁がいたと言う。

その嫁が、今付き合っている男も、巨大組織のヤクザである。

この男の家庭内暴力が酷くて、元嫁が逃げる所を探している。

そこで過去に苦労を掛けた女だから助けたいらしい。

その為の引越し費用と生活費だと言う。

しまいには僕にも嫁と会ってくれと言う。

「お金は良いけど、それは断る!」

そう僕は言った。

なぜなら浪花節がウザい。

会う意味も分からない。

しつこく頼まれ元嫁に会う事になった…

嫌で仕方なかった。

ゴトが終わった夜にファミレスで元嫁に会った。

初めて見た元嫁の顔面は、デコボコでアザだらけであった。

ちょっと引いた…

とっくに別れろよ…

馬鹿なのか?

年若い僕はそう思った。

元嫁はいきなり僕に、お礼を言い始めた。

こんな顔の女を、お礼を言わせる為に引っ張り出して来たのか…

ふざけた事しやがって…

慣れない挨拶をして僕はすぐに帰った。

次の日、お金はいくら使っても良いと妄爺に言った。

その翌日に妄爺は、元嫁の家にナタを持って殴り込んだ。

相手の男は、鉄砲を持っているのは聞いていた。

ナタでなぜ乗り込むんだ…

僕の周りはバカばかりである。

夜中に妄爺から電話が掛かって来た。

「引越し、手伝ってくれ…」

は?

今何時?

急ぐと言う。

良夫ちゃんのバンを出動させて、元嫁の家に着いた。

この時、外で僕達の到着を待っていた震える元嫁に、初めて事の経緯を聞いた。

僕はただの夜逃げ引越しだと思っていた。

部屋に入ると血だらけの一人の男が転がっている。

死んでいるように見えた。

その横で、暗い目をした妄爺が、座って煙草を吸っていた。

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