この時期、妄爺にも問題が起こっていた。
いつもは夜にご飯を食べに行くのだが、昼間に会えないかと電話が掛かって来た。
僕は当然ゴト中である。
近くまで行くと言うので会った。
会ってすぐに妄爺は言った。
「頼む。百万くれ!」
必死な顔である。
笑いそうになった。
貸してじゃ無くて、くれと言う。
有り得ない言い草である。
借りても返せないから、くれと言ったそうである。
「良いよ。銀行行って来る。待ってな」
そう言って、お金を下ろして来た。
僕の貯金箱は、ゴミ箱なので、銀行には二百万程しか入れていない。
犯罪で稼いだお金など、そんな物である。
税金など払いたくても払えない。
妄爺に渡すお金なら理由など、どうでも良かった。
「何に使うか聞かないのか?」
そう妄爺は言った。
仕方ないから笑いながら聞いた。
「カツアゲでしょ?」
違うと言う。
違わないと言う。
妄爺は理由を話し始めた。
浪花節である。
刑務所に入る時に別れた嫁がいたと言う。
その嫁が、今付き合っている男も、巨大組織のヤクザである。
この男の家庭内暴力が酷くて、元嫁が逃げる所を探している。
そこで過去に苦労を掛けた女だから助けたいらしい。
その為の引越し費用と生活費だと言う。
しまいには僕にも嫁と会ってくれと言う。
「お金は良いけど、それは断る!」
そう僕は言った。
なぜなら浪花節がウザい。
会う意味も分からない。
しつこく頼まれ元嫁に会う事になった…
嫌で仕方なかった。
ゴトが終わった夜にファミレスで元嫁に会った。
初めて見た元嫁の顔面は、デコボコでアザだらけであった。
ちょっと引いた…
とっくに別れろよ…
馬鹿なのか?
年若い僕はそう思った。
元嫁はいきなり僕に、お礼を言い始めた。
こんな顔の女を、お礼を言わせる為に引っ張り出して来たのか…
ふざけた事しやがって…
慣れない挨拶をして僕はすぐに帰った。
次の日、お金はいくら使っても良いと妄爺に言った。
その翌日に妄爺は、元嫁の家にナタを持って殴り込んだ。
相手の男は、鉄砲を持っているのは聞いていた。
ナタでなぜ乗り込むんだ…
僕の周りはバカばかりである。
夜中に妄爺から電話が掛かって来た。
「引越し、手伝ってくれ…」
は?
今何時?
急ぐと言う。
良夫ちゃんのバンを出動させて、元嫁の家に着いた。
この時、外で僕達の到着を待っていた震える元嫁に、初めて事の経緯を聞いた。
僕はただの夜逃げ引越しだと思っていた。
部屋に入ると血だらけの一人の男が転がっている。
死んでいるように見えた。
その横で、暗い目をした妄爺が、座って煙草を吸っていた。
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