電話に出た部長はめちゃくちゃ怒っていた…
怖いよ…
何を言っても許す雰囲気は皆無である。
「止めようとしてんだけど、打ち子が言う事聞かなくて…」
部長が吠える。
「ふざけるな! ここまでされたら警察呼ぶしかないぞ!!」
嘘こけ…
相当なバカでも無きゃ、警察なんて呼べる訳ない。
部長は決してバカでは無い…
少し人が良いだけだ。
だからそれを利用する。
「警察だけは勘弁して下さいよ… 打ち子を止める方法があるんですけど、部長の協力が必要なんです… すいません」
全く部長は聞く耳を持たない…
カード会社からも2時には警告が来たと言う。
「ヤバイじゃないですか! すぐやめさせないと! 部長、協力して下さいよ! 大変な事になりますよ!」
そう脅かした。
また部長が折れた。
一度折れた奴は、何度も折れる。
自分の卑怯さに嫌気がさして来る。
「なんだ! 早く言え!」
部長は怒鳴っている。
「電話じゃ言いづらいから、この前のファミレス来て下さいよ… 待ってますから…」
そう言ってみた。
「すぐ行く!」
怒鳴って電話は切れた。
え?
来んの?
信じちゃった?
ホールの前に居た僕は、慌てて部長に見られないように路地裏に隠れた。
少しすると部長が既にキレた顔で、ファミレスの方へと歩いて行く。
実は方法など無いと言ったら、どうなるのかを考えるだけで恐ろしい…
ファミレスまでは5分も掛からない。
見つから無いように部長の後から付いて行く。
探偵の気分だ…
ファミレスに入った部長から、すぐに電話が掛かって来た。
通話ボタンが怖くて押せない…
無視する…
しつこく震え続ける携帯…
何度目かに恐る恐る出た。
「おいこら!!どこに居るんだ!!」
僕は、いきなり叱られた…
「すぐ行きます、すぐ行きます!」
それだけ言って、僕は電話をすぐ切った。
時間だけが過ぎて行く。
最終確認を電話でツルッパにした。
「どう? 問題ない?」
「一人、客に疑われて打てなくなったよ」
ちくしょー!
下手くそめ!
その打ち子からのカード回収を言い付けて、玉抜きをそろそろ始める事を伝えた。
「ビビんなよ!」
最後にハッパを掛けて電話を切る。
時間の進みが、やけに遅く感じた。
また電話が震えている。
出る気は無い。
ファミレスの入口を、ただ黙って見ていた。
3時を10分程過ぎた所で、部長がファミレスの入口に現れた。
全身で怒っているように見える。
僕は一つ息を大きく吸い込み、部長の元へとユックリと走り始めた。
僕を見つけた部長は怒鳴った。
「何やってんだ!!」
この野郎…
偉そうに…
もうすぐ震えるくせに…
思いとは裏腹な態度で言った。
「すんません、ちょっと手間取って…」
ここで話せと言う部長を無視してファミレスへ向かう。
外で話していたのでは、いつ殴られるか分からない…
近くに、はったりツルッパは居ないのである。
部長は仕方なくついて来る。
ファミレスの、一番奥の席に座った。
いきなり部長は聞いて来た。
「どうすりゃ良いんだ!」
ここから先は考えていた。
篭城作戦である。
簡単に言うと、時間まで便所にコモる…
怒った人と一緒は嫌い…
【嫌な事からは逃げろ】を忠実に守った作戦であった。
「すいません、ちょっと便所いいですか? 腹痛くて…」
部長は顎で行けと言う。
すぐには行かず、煙草の自販機の前で一万円札を出して、買えなくて困った振りをする…
レジで両替を頼む…
その間、部長は、僕をずっと睨んでいた…
便所に篭って5分経った。
あと10分程で3時半。
イケる!
そう思っていた。
不気味に携帯が震える。
ツルッパからだった。
「二人疑われた! 客は多分店員にチクりに行った!」
あと少しだったのに…
「玉抜き始めろ! 慌てんなよ! 言った通り動けば上手く行くから!」
「分かった!」
それだけ言ってツルッパは電話を切った。
電話が切れた後、これで充分だと思う自分が、トイレの大便ブースにいた…
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