知らん顔で打ち続ける。
カウンターに立つ部長を確認してからは、一度もソチラを見なかった。
完全無視である。
何も言っては来ないまま時間が過ぎて行く。
少しすると一般打ち子がエラーの解除を頼みに来た。
部長に見られるのが嫌だなと思ったが、それどころではない。
時間を空ければ店員に気付かれる可能性は上がる。
可能性が上がるだけで、実際は、エラーランプの点滅だけで、すぐに気付く店員などいない。
テレビで、どんなに変造カードを騒いでいても、ランプの点滅だけで、すぐに気付いた店員は、長い変造カード時代、五本の指で余る。
忙しいのか…
抜け作なのか…
それは知らない。
バレる時は、決まってゴト師が勝手にビビッて、変な動きをした時である。
エラーが出て、すぐに席を立てば、長い間気付かれない事はザラであった。
これは、何度言ってもサンドの鍵を忘れたり、無くしたりする良夫ちゃんが証明済みである。
近くの違うホールで打っていると電話が掛かって来る。
「鍵忘れたんですけど… エラー出てます」
知らんがな…
僕は良夫ちゃんに、ゴト師として鍛えられたように思う。
彼は僕に、様々な限界を見せてくれた。
嘘だろ~と言う所まで平気で突っ込む。
そして捕まったり、追い掛けられたりする…
僕はそのギリギリのラインを覚えて措くだけだった。
と言う事は…
良夫ちゃんは僕の師匠?
なんか嫌!!
更に、気配の消し方は、婆さんに習った感じもある…
今、僕は、なぜかへこんでいる…
気付いちゃった編 完!
解除のために席を立ちながらカウンターの方を見る。
部長は居ない。
少し安心した。
エラーを解除して席に戻ると、僕の携帯が震え始めた。
外に出て電話に出る。
「ふざけんなっ!!」
部長が烈火の如く怒っていた。
エヘッ
見られちった?
防犯カメラで見たと言う。
「ダメなの?」
トボケて聞いた。
「ダメに決まってんだろ! それに何人入れてるんだ!!」
部長は怒りが増したようである。
「そんなに怒んないで下さいよ。エラー出たら抜かなきゃ部長だってマズイでしょ? それなら店員一人ぐらい付けてくれる?」
しかし部長は「全員引き上げろ!」しか言わない。
随分ノンキな事言ってんな~と思った。
「もう少し帰れませんよ。 カード使い終わってないし」
正直に言った。
「ダメだ!帰れ!」
そればかり部長は言い続ける。
面倒臭くなったので、無視して電話を切り、ホールに戻ってパチンコを続けた。
その間、携帯は鳴り続けている。
打ち込みは順調であった。
少しすると部長が僕の肩を叩いた。
殴り掛かかって来そうな顔である。
チビリそうなのをグッとこらえた。
「外に来い!」
怖い…
殴られそうな雰囲気にビビる…
入口の近くで打っているツルッパを、アゴで呼んだ。
歯抜け得意の睨み戦法である。
ツルッパは睨むのは練習しているのか迫力がある。
揉め組の若い衆と、僕が揉めた時には、近くにいたのに、三台の車が到着した時には、スッ飛んで逃げた実績がある、ツワモノだ。
店の少し離れた路地に誘われた。
少し離れて、ビビりながらついて来るツルッパを見て、部長は少し怯んだように見えた。
歯抜け戦法成功の瞬間である。
しかし部長は、必死に強気を見せようとしている。
「お前らふざけんなよ!」
僕はどうにかして店員を味方に付けたかった。
「もう少ししたら終わるから頼んますよ~」
とへりくだる。
帰れと言う部長…
店員付けてと言う僕…
話しは平行線をたどった。
着々と時間だけが過ぎて行く。
少しすると部長が折れた。
「あとどれぐらいで帰るんだ…」
まだ1時前の事である。
「店員付けてくれるなら2時頃には帰ります…」
少し考えて部長が言った。
「絶対帰れよ!店員は一人だけ付けてやるから!」
僕には、その声が悲鳴に聞こえた。
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