組織犯罪の始まり39

知らん顔で打ち続ける。

カウンターに立つ部長を確認してからは、一度もソチラを見なかった。

完全無視である。

何も言っては来ないまま時間が過ぎて行く。

少しすると一般打ち子がエラーの解除を頼みに来た。

部長に見られるのが嫌だなと思ったが、それどころではない。

時間を空ければ店員に気付かれる可能性は上がる。

可能性が上がるだけで、実際は、エラーランプの点滅だけで、すぐに気付く店員などいない。

テレビで、どんなに変造カードを騒いでいても、ランプの点滅だけで、すぐに気付いた店員は、長い変造カード時代、五本の指で余る。

忙しいのか…

抜け作なのか…

それは知らない。

バレる時は、決まってゴト師が勝手にビビッて、変な動きをした時である。

エラーが出て、すぐに席を立てば、長い間気付かれない事はザラであった。

これは、何度言ってもサンドの鍵を忘れたり、無くしたりする良夫ちゃんが証明済みである。

近くの違うホールで打っていると電話が掛かって来る。

「鍵忘れたんですけど… エラー出てます」

知らんがな…

僕は良夫ちゃんに、ゴト師として鍛えられたように思う。

彼は僕に、様々な限界を見せてくれた。

嘘だろ~と言う所まで平気で突っ込む。

そして捕まったり、追い掛けられたりする…

僕はそのギリギリのラインを覚えて措くだけだった。

と言う事は… 

良夫ちゃんは僕の師匠?

なんか嫌!!

更に、気配の消し方は、婆さんに習った感じもある…

今、僕は、なぜかへこんでいる…

気付いちゃった編 完!

解除のために席を立ちながらカウンターの方を見る。

部長は居ない。

少し安心した。

エラーを解除して席に戻ると、僕の携帯が震え始めた。

外に出て電話に出る。

「ふざけんなっ!!」

部長が烈火の如く怒っていた。

エヘッ

見られちった?

防犯カメラで見たと言う。

「ダメなの?」

トボケて聞いた。

「ダメに決まってんだろ! それに何人入れてるんだ!!」

部長は怒りが増したようである。

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「そんなに怒んないで下さいよ。エラー出たら抜かなきゃ部長だってマズイでしょ? それなら店員一人ぐらい付けてくれる?」

しかし部長は「全員引き上げろ!」しか言わない。

随分ノンキな事言ってんな~と思った。

「もう少し帰れませんよ。 カード使い終わってないし」

正直に言った。

「ダメだ!帰れ!」

そればかり部長は言い続ける。

面倒臭くなったので、無視して電話を切り、ホールに戻ってパチンコを続けた。

その間、携帯は鳴り続けている。

打ち込みは順調であった。

少しすると部長が僕の肩を叩いた。

殴り掛かかって来そうな顔である。

チビリそうなのをグッとこらえた。

「外に来い!」

怖い… 

殴られそうな雰囲気にビビる…

入口の近くで打っているツルッパを、アゴで呼んだ。

歯抜け得意の睨み戦法である。

ツルッパは睨むのは練習しているのか迫力がある。

揉め組の若い衆と、僕が揉めた時には、近くにいたのに、三台の車が到着した時には、スッ飛んで逃げた実績がある、ツワモノだ。

店の少し離れた路地に誘われた。

少し離れて、ビビりながらついて来るツルッパを見て、部長は少し怯んだように見えた。

歯抜け戦法成功の瞬間である。

しかし部長は、必死に強気を見せようとしている。

「お前らふざけんなよ!」

僕はどうにかして店員を味方に付けたかった。

「もう少ししたら終わるから頼んますよ~」

とへりくだる。

帰れと言う部長…

店員付けてと言う僕…

話しは平行線をたどった。

着々と時間だけが過ぎて行く。

少しすると部長が折れた。

「あとどれぐらいで帰るんだ…」

まだ1時前の事である。

「店員付けてくれるなら2時頃には帰ります…」

少し考えて部長が言った。

「絶対帰れよ!店員は一人だけ付けてやるから!」

僕には、その声が悲鳴に聞こえた。

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