こうして一日二百万円打ち込む事になった。
月に直すと六千万円である。
これが全てカード会社の損害になる。
この時点でカード会社からサンゾクへは何も言って来ていない。
僕の取り分は月に二千万円に届く。
机上の計算では問題無く打ち込める。
今まで百万円打ち込むのは、ノンビリやって6、7時間で出来ていた。
二百万円打ち込むのに掛かる時間は、単純に時間を倍にすると13、14時間であろう。
玉抜きを増やせば4時間は短縮出来る。
打ち子の日当は当然倍にする。
店員にも安いが月に一人十万円渡す。
どこにも問題は無い。
イケる!
はずだった…
社長に、二百万円で行こうと言われた日の夜、サンゾクの四人の店員も呼びだして、皆で遠くの焼肉屋に集まった。
作戦会議を兼ねた店員の接待のつもりである。
当然のように社長には内緒にした。
店員と打ち子は既に気心も知れている。
焼肉屋の奥の個室の席で僕は切り出した。
「あさってから打ち込む金額、二百万円で行くよ」
自分の手にのるであろう金額を聞いた皆は喜んだ。
店長だけは少しひるんでいる。
しかし反対をした訳では無く、少し怖がっただけである。
誰も反対まではしなかった。
皆が欲に駆られている。
焼肉の後、全員でキャバクラのハシゴをした。
「これ、取っといて」
宴が終わった明け方に、四人の店員に十万円づつを渡した。
「え? 月の取り分先にくれるんですか?」
そう聞く店長に言った。
「これは関係ないよ。臨時ボーナス」
先程まで少しひるんでいた店長も多少やる気になった。
目が回る。
酔っ払って地球が回っていた。
グルグルと僕を中心に回っていた。
二百万円に切り替える当日の朝、いつものように打ち子達と、僕はファミレスにいた。
今更、作戦会議も必要は無い。
この時期使われていた変造カードの種類は、主に五千円券と三千円券の二種類であった。
一万円券は使用済みカードが手に入りづらいのだろう。
この日、なぜか雪ちゃんに渡されたカードは、全部三千円券である。
「ごめんアルヨ。最近五千円の使用済みカードも手に入りづらいみたいアル」
そう言いながら、雪ちゃんは紙袋に入れた変造カードを、僕に手渡した。
なんか重い…
「ん? 二日分?」
「違うヨ。一日分アルヨ」
そう言って、雪ちゃんはニコニコ笑った。
僕は、恐る恐る紙袋を開いて驚愕した。
その数なんと予備を含めて700枚…
見た瞬間に体にふるえが走った。
これ一日で…?
イケるのか…?
何か大きな間違いを犯していないか…?
そしてファミレスで、モーニングを食べ終わり、リラックスしてコーシーをすするバカヅラの打ち子達に、変造カードを手渡した。
その数一人約130枚…
それまでは約50枚…
手に乗せた瞬間、打ち子のバカヅラに脅えが走る。
しばらくは誰も口を聞かない…
「ヒィッ!」と言った奴は居た。
さらにしばらくすると打ち子の一人が言った。
「む、無理だろ…?」
「…… 」
無理とか無い!
そうは思うが僕も言葉が出ない。
黙っている訳にも行かずに言った。
「と、とりあえずやってみよ…」
渋々だったが彼らもお金は欲しい。
使い切らなければお金にはならない。
決行に決まった。
この時僕はまだ気づいていなかった。
更に大きな問題がある事に…
10時の開店と共に打ち子が入店した。
駐車場の車の中で、僕は一人横になる。
枚数にビビっただけで問題は無いだろ、と考えていた。
しかし何かが起こる予感がする。
助手席には変造カードの束が紙袋に入れて置いてある。
30枚なくなる毎に、取りに来る事にしたからである。
僕も少しでも枚数を減らそうと思いキャップを深くかぶった。
早番の店員の中に、第一回の時に揉めた店員はいない。
僕の事を見た、お客さんも、覚えてはいないだろう。
このごろでは僕も普通に打っている。
仲間が玉抜きに使っている列に行った。
仲間以外のお客さんは、まだ誰もいない。
元々、この店は客付きが良くない。
開店前に人が並ぶ事なども当然ない。
その店の、人気の無い台ならば、お客さんがいないのも当然であった。
午前中に、お客さんが仲間の列に来ない事すらある。
なので開店から二時間前後が玉抜きのチャンスになる。
この日、打ち子が消化しなければいけない金額は一人約四十万円…
僕が仲間の列に入って行くと、ここで抜かねばドコで抜く!! と言わんばかりの、必死の形相で玉抜きをする打ち子達がいた。
お前ら…
やばくね?
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