組織犯罪の始まり11

それでも、いくらさともう一度聞くと小池は答えた。

「店長とかは知らないですけど、俺は月に三万から五万です…」

少な!

社長の月の儲けは、六百万円と確かに少ないが、、四人の店員に払う金額も三十万円を越えないであろう。

普通の仕事なら、これで構わないと思う。

しかし腐っても犯罪行為をさせるのに、これは安いと思った。

店員にふて腐れられたり、ソッポを向かれたらやりづらい。

ましてや人に喋られたら終わりである。

少し僕の方でもお金を渡そうと決めた。

小池に言った。

「上手くやってくれたら僕の方でもどうにかするよ。社長には内緒ね」

「ホントですか! お願いします」

小池は嬉しそうに笑った。

これが、小池との始まりであり、小池の人生を狂わせる最初の一歩であった。

スポンサーリンク

打ち子と玉抜きの方法や作戦を短い時間で話しあった。

彼らは打ち子とは言え全員変造カードの経験者である。

捕まるのを恐れて普通の店で打つ事を辞めた人達である。

僕と何かが違う訳では無く、少し頭が良いだけだった。

捕まる事を考えると辞めるのが賢い選択である。

捕まる事が損だと言う計算が出来ないのが僕だった。

それだけの違いであった。

簡単な説明で彼らは理解して、作戦会議は終わった。

リュウを見ると緊張はしていないように見える。

「おい。僕は店の中あんまりウロウロ出来ないから、おかしな事があったら勝手に逃げな」

「嘘つくな。何も起こらないヨ」

見慣れない頭をしてリュウは笑った。

第二弾、サンゾク玉抜きタイムが始まった。

みんなが入店した。

僕にはやる事が無い。

パチンコ屋の駐車場の出口に近い所に車を停めてゴロンと横になった。

ほとんど毎日変造カードを打って来て、一年が経とうとしている。

体にスリルが染み込んでいた。

青い大きなゴミ箱の中には、数える事もされないお金が貯まっている。

ある一定の金額を越えた頃から、お金を求めているのかスリルを求めているのか分からなくなり始めていた。

一時間程横になっていただろうか。

落ち着かない。

助手席に置いてある帽子を目深に被り、ポケットの中の変造カードを確認して僕はホールへ向かった。

打ち子達が使っている列から、一番遠い列のパチンコ台を一台選び、変造カードをサンドに入れた。

少し落ち着いた気がした。


この日の稼動時間は4時間程だった。

僕がみんなとは違う列で遊んでいると携帯が鳴った。

出るとリュウが言う。

「終わったよ。ドコ?」

「分かった。すぐ行く」

早いなと思ったが、自分の出玉を両替した。

前回の時に居た店員は居なかった。

小池が僕に気づき寄って来る。

「やってたんですか?」

なぜか笑っている。

「暇だったからつい。前の時に居た店員も居なかったみたいだから。客も平気でしょ?」

そう言って僕も笑った。

「平気ですよ。みんなボケた客ばっかりだから。今みなさん終わって出て行きましたよ」

「分かった。また明日ね」

それだけ言って僕は店を出た。

リュウが僕の車の助手席に座って待っていた。

車に乗ると、何をしていたかとリュウが聞く。

「パチンコですけど~」

「この店デ?」

「そうですけど~」

「ダメ違うアルカ?」

リュウは少し驚いた。

「駄目とか関係無いあるよ~」

僕はふざけた。

二人で笑った…

笑いながらリュウが言う。

「みんなファミレスで待ってるヨ」

「分かった。それにしても早く終わり過ぎじゃないか?」

小池に問題があると言う。

怖がるのかを聞くと逆だと言う。

店長との取り決めで十万円は玉抜きで、残りの十万円は普通に打つと決めてある。

それは小池も当然知っている。

だから打ち子達は、安全に玉抜きが出来る時以外は、普通にパチンコを打っていた。

お客さんに見られて打ち子をクビになりたく無いからである。

それなのに小池は、お客さんが近くにいても「あの客ボケだから平気ですよ。抜いちゃって下さい!」などと言って責っ付くらしい。

打ち子も早く終わった方が楽なので言われた通りに玉抜きをする。

しかし打ち子は、どれぐらいまでが安全か、ある程度は知っている。

今はマズイと思って控えていても小池はしつこく責っ付くと言う。

お客さんと打ち子の間に自分の体を入れてブロックしてまで抜けと言う時もある。

僕の予想では、6、7時間は掛かると思っていたのに早かった理由が分かった。

「あの人分かってないアルヨ。危ないよ」 

「そうだな… ブロックはやり過ぎだな…」

逆に目立つ。

カードゴトの初心者が使う手である。

まあ、怖がる奴より良いか…

明日少し注意しておこうと思った。

コメント