知らぬ間にゴト師20

確かに夜7時を過ぎると雰囲気が悪くなるのは感じていた。

婆さんも良夫ちゃんも感じていた。

もっと早く言えば良いのに…

少し考えれば分かった事だなと思った。

僕達が打ち込むと他店からの持ち込みカードの差額が増え過ぎる。 

婆さんと良夫ちゃんに、ツルッパが泣いているから、あの店やめて良いかと聞いたら渋々頷いた。

ツルッパに比べたらこの二人は随分楽してんなと思った。

締め上げたろかな… 

それでも僕が、一番楽でお金になっていた…

僕の手取りは一日二十万円を越えていた。

妄爺は相変わらず、そろそろ芋の季節だと言って喜んでいた…

細かい危険はあったものの、無事に二ヶ月ほど過ぎた頃、歯抜けが話しがあると言って来た。

鴨がネギを背負って来た瞬間である。

変造カード安くしろとかかなと思った。

僕はヤクザに、これまでの人生で、直接何か嫌な事をされた事は無い。

ヤクザと言っても、妄爺とキレ爺ぐらいしか知らないのだが、良くされた事ばかりである。

それでもヤクザと聞くと大嫌いであった。

怖かったのかも知れないし、人種として嫌だったのかも知れない。

出来れば付き合いたく無いと思っていた。

それでも付き合ったのはお金になるからである。

僕は金の亡者だった。

儲けが少なくなるようなら、嫌いで危ない奴とは付き合いたくはない。

特にヤクザとは…

この時、歯抜けがカードを安くしろと言ったら付き合うのをやめようと思っていた。

ヨゴレヤクザと付き合っていられるかと思った。

待ち合わせたファミレスで、案の定、歯抜けは言った。

「カード安くならない?」

はい! 35000円消えたー

そう思った。

ゴミを見る目をした僕に歯抜けが慌てた。

「ちがう、ちがう!」

そう言って話し始める。

何が違うだゴミ野郎~と思ったが黙って聞いた。

カードが安いと言う理由だけで、全く下手に出ない僕…

更には少し偉そうである。 

最低です…

鴨がネギに付いて語る話しは、僕にとって最高の話しであった。

歯抜けは自分の知っているパチンコ屋と、変造カードでパチンコが打てるように話しを付けて来たと言った。

おっ!

もっとカード売れる!

そう思ったが更に話しは続く。

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場所は東京から、一時間程の、隣りの県だと言う。

パチンコ屋オーナーとの取り決めで、一日百万円まで打ち込んで良いからカタギに見える人間を入れてくれと言う事であった。

歯抜けはこのシノギ(仕事)を組には言わずにやりたいらしい。

言えば組に上納金を取られるからである。

そうなると歯抜けには人が居なかった。

だからカードの金額を安くして人を集めてくれないかと言われた。

取り分の話しさえキチンと出来れば願ってもない話しである。

しかし歯抜けはツルッパ達を奴隷のように使っている。

油断がならん。

この日はだいたいの条件だけを聞いて帰った。

「やるとしても五人は必要だから明日返事する」

それだけ、歯抜けに言った。

僕の中では、既に決定していたが、勿体を付けてみただけである。

さっそく人集めをしなければいけなかったが、僕にはあてがあった。

変造カードの工場に一人の女がいた。

いつも出来立てホヤホヤのカードを僕に渡す役の女である。

この女は名前を雪ちゃんと言った。

日本人では無いのだけれど…

モデルかと思うぐらいに手足が長く、綺麗な小さい顔をしていた。

美人は嫌いでは無い。

カードの受け渡しや、エラーカードの精算の時に喫茶店でよく、くだらない話しをしていた。

その時に雪ちゃんが言っていた。

「私の友達も変造カードやりたいんだけど… 捕まるのが怖いから出来ないアルヨ」 ん?!

「あなた達はエラーカードも全部持って帰ってくるし、話しの付いた店でやってルノ?」

違うと言うと驚いていたが、捕まらないでやれる所があったら、取り分は安くても良いから紹介して欲しいと言っていた。

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