この後怖い物知らずの二人は、白服が遠くで見ている事を知りながら玉抜きをした。
実行役は良夫ちゃんであった。
当たりを引いていない段階で三万円分の玉抜きをした。
当たっていないのだから、足元に箱が積める筈がないのに、足元にある箱は、四箱を越えた。
それをしっかり見た白服は、大きく頷いて事務所の奥へ消えた。
ボケていないのを願うような話しだった。
婆さんは、間違いないですと言う。
確かに今までも見逃しているなと思わせる店はあった。
余りにも露骨だが、それと一緒であろう。
僕も二人に同意した。
次の日から客や店員にはバレないように玉抜きを様子を見ながら開始する。
少しすると白服が事務所から出て来て婆さんに笑いかけた。
間違い無かった。
一時間後には僕も一味だとバレた。
バレる様に動いたからである。
僕を見てニヤリと笑う白服の顔が妙に気に入らなかった。
三人で三十万円程の玉抜きをした頃に、事務所から出て来た白服が、僕に分かるように首を何回も横に振る。
やめろと言う事だと理解した。
まだ打ちたがる二人を連れて店を出る。
換金率の問題で一人七万円ぐらいの儲けである。
「最後、白服首振ってなかった?」
そう婆さん達に聞いた。
「そう言えば振ってました」
一日、七万円の収入が確定した。
この日妄爺を呼びだして、ワカメを沢山食べさせてあげた。
髪の毛…
生えると良いね。
次の日から、その店で、その店の思惑を考えながら打つようになった。
白服が【スネ夫】に似ていたので、僕達は、スネ夫の店と呼んでいた。
前日、スネ夫が首を振って意思表示をするのを見た僕は、必ず店側になんらかの希望があると思った。
余り流行っていない店だったので、変造カードを使う事を歓迎しているのは分かる。
なんとかスネ夫の意思を確認したいが、スネ夫との言葉での接触は、良い方に転ぶか悪い方に転ぶか分からない。
最初に婆さんに、毎日来て下さいねと接触して以来、1週間経ってもスネ夫からの言葉での接触は無い。
スネ夫の店に昼過ぎに僕達が行くと、事務所からスネ夫が出て来て僕に頷く。
打って良いと言う事だと理解出来る。
やめさせたく為った時も同様に、僕に首を振って見せるだけであった。
スネ夫の意思表示は三日目から僕だけにしかされないようになっている。
婆さん達は勘が鈍すぎて、普通の人なら当然理解するはずの、スネ夫の細かいジェスチャーの意味を理解出来ない。
安全を、言葉で確約して欲しがる二人に僕は言った。
「しばらく様子を見よう」
僕達と同じぐらいスネ夫は僕達が怖いのだと思った。
サラリーマンが、ゴト師(コソ泥野郎)と付き合うスネ夫の恐怖を考えた。
スネ夫にいろいろ聞いてくれと僕を脅かす二人。
「自分で聞いて来なよ」
そう言うと、二人は嫌がる。
僕だって嫌だ…
「僕達に慣れて来て、必要ならスネ夫から話し掛けて来るよ。今ヘタに話し掛けて、アガリをいくらかくれって言われたらどうすんの?」
安全よりも儲けが大事なプッツン二人は即答した。
「このままで良いです」
そう言うと思ってたよ…
一週間経つとスネ夫の希望は分かった。
打ち込む金額は三十万まで。
夕方5時には帰って欲しい事。
店員や客にバレる、派手な玉抜きは避けて欲しいような感じ。
しかしこれは打ち込む金額が三十万に5時までに届かない感じだと黙認された。
僕達は見た目ですぐにバレるような打ち方はしなかった。
これだけ分かれば問題無い。
例え店員にバレて捕まっても、警察に突き出される事は無いだろう。
言葉は交わしていなくても同罪なのだから。
それでも捕まって警察を呼ばれそうになった時の為に、店側への脅し文句を二人に教えた。
「捕まって警察呼ばれそうになったら、スネ夫に変造カードで打つように頼まれたって言いな。カードもスネ夫に貰ったって言えば良いから。それ言って後は黙りな」
え?と言う顔をする二人に言った。
「それで100%助かる。すぐに僕も事務所に行くから」
「なら安心ね」と納得するアホ二人をよそに、捕まった時がスネ夫との接触のチャンスだと僕は思った。
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